遊女たちの手練手管

遊女は人気商売です。どう男たちをその気にさせて、何度も自分のところに通わせるかがとても大事です。同じ客が何度も通ってくれれば収入も増えるし、いい格好もできます。稼げる遊女は、見世にも大事にしてもらえ、多少のわがままも聞いてもらえるようになります。稼げない遊女は、尻をたたかれます。多少の熱があっても、気に染まない相手であっても、仕事をしなければなりません。

遊女の人気は第一に姿かたちで決まります。顔が美形でスタイルの良い遊女は客がつきます。第二に床上手。セックステクニックにたけた遊女は、多少顔はブサイクでも人気を得ました。第三が、客あしらい。客をいい気分にさせるテクニックです。

【手練手管がとても大切】

遊女が客との別れ際に必ず行うのが、「きぬぎぬ」。「衣衣」と書いたり「後朝」と書いたりします。夜を過ごした後、朝客が帰るときにする、別れを惜しむ行為のことです。一晩セックスをした相手に対し、「また来よう」という気持ちにさせるためのテクニックです。いかにも別れが惜しい、という題度を示したり、後から着物を着せるときに抱き付いたり。男は、演技かも知れないと思いつつ、心を揺さぶられてその気になります。

大門での別れ際に、男の背をぽんと叩いて「近いうちに来てくださいな」などとさりげなく口にしたりもします。こうした遊女の言葉に、客はころりと騙されます。「自分にだけは本気なのかもしれない」と思い込み、また来ようという気になってしまいます。こいした手練手管は今も昔もあまり変わりません。

【疑似夫婦体験が吉原の魅力】

吉原では、単にセックスを売るのではなく、恋愛関係を商品にしています。遊女と客との間には、遊郭の中でだけの疑似的な夫婦関係が成立していました。通ってくる男たちの楽しみは、「夢の中の夫婦」として一晩過ごすことです。現実の世界での夫婦関係にはない甘いものを、吉原では体験できます。

単に射精して性欲を発散するだけなら、わざわざ吉原に来なくても、もっと安い価格で経験できます。吉原に来れば、現実の世では抱くことのできない美人を抱くことができ、普段経験できないような性体験ができ、しかも甘い言葉で口説かれる。最高の妻が、吉原の中では獲得できます。そんな女性が自分に気があると信じた男達は、遊女の恋心に応えるために足繁く通い、贈り物をしたり、高価な強精剤を飲んでセックスでも満足させようとしたりすることでしょう。自分が惚れた相手に良く思われたいのは古今変わらぬ心情です。今も高級レストランで女性をもてなしたり、ホテルに行く前にこっそりバイアグラを服用したりするのは男性の性といえるのではないでしょうか。

遊女の手練手管は、疑似夫婦体験を盛りあげるための手法です。男たちは「ウソかも知れない」「ウソに違いない」と思いながらも、その言葉に酔い、「また来よう」という気にさせられました。