落語の題材にもなった吉原の魅力

江戸の人情を面白おかしく描く落語では、郭噺とよばれる男女の色事や性事情もたくさん扱っています。特に、落語の郭噺を見ていくと、吉原で生きる遊女の生活振りや彼女たちに熱を上げる男たちの滑稽な姿が情緒たっぷりに描かれ、「吉原といっても、案外明るくて楽しい場所だったんだな」と考えさせられることも。また、意外と知られていない吉原のシステムやルールなども垣間見え、江戸風俗・文化をよく知る手がかりにもなります。

ここでは、そんな古典落語の郭噺として有名な「明け烏」「お直し」「首ったけ」のあらすじをご紹介し、当時を生きた庶民の目を通して吉原の魅力に迫ってみます。落語と吉原の面白さを改めて知る一つのきっかけとしてもらえれば幸いです。

【「明け烏」】

地主の跡取り・時次郎はバカがつくほど真面目で、世間をよく知らない。そんな一人息子を心配した父親は、悪の遊び仲間に相談して、息子を吉原に連れて行ってくれと頼み込みます。二人は体よく時次郎を吉原の床の間に連れ込みますが、事情を知らされていなかった本人は花魁の魅惑的な体を見て泣き出す始末。帰ると騒ぐも、二人の仲間は「入りと帰りは同じ人数でないと吉原の門はくぐれない」とでたらめのルールを教えて時次郎を黙らせます。

しかし時次郎は花魁の手ほどきを受け、あっという間に男の喜びに目覚めます。時間が過ぎても布団から出ようとしない時次郎に、あきれた仲間は「先に帰るぞ」といいますが、「帰ってみなさい。同じ人数でないと門はくぐれないから」と返されるところで噺は終わり。うぶで真面目一点張りの坊ちゃんですら、吉原の遊女にかかれば一夜でこれほど変貌させるほど、あちらのテクニックは凄いということでしょう。

【「お直し」】

吉原で働く花魁と若い男の衆が恋仲になり、お店にばれてきつく叱られます。しかし亭主がいい人で、男も女も首にならずそのまま働けることに。やがて二人は夫婦になりますが、だんだんと亭主の生活が荒れ、女房もお店に居づらくなったことから二人で新しい郭屋を始めます。「蹴転(けころ)」と呼ばれる店で、遊郭よりは一段とランクが落ちます。一人の客を捕まえて何度も延長させてお金を搾り取るシステムで何とか成り立つ商売でした。

何度も延長させて行為を繰り返させるものだから、やがて亭主のほうが焼きもちを焼き始めます。だんだんと堪らなくなってしまった亭主は、お店を閉じた後女房と口論になりますが、そこは夫婦となった間で仲直りします。その一部始終を見ていた客が、「お直しだよ」とこぼしたところでオチ、という落語です。吉原で出会い、結ばれた夫婦のほほえましい愛情噺ですね。

【「首ったけ」】

ひいきにしている遊女・紅梅が来るのを待っている辰。ちっとも来ないばかりか、隣の座敷でどんちゃん騒ぎしていることに我慢ならなくなり、席を蹴って遊郭を後にします。その帰り、偶然立ち寄った他の郭屋の遊女・若柳が自分のことを気に入っていると聞き、彼女といい仲に。やがて紅梅のことは忘れ、辰は毎晩若柳のところに通うようになるのです。

ある日、吉原が火事になり、紅梅のお店も燃えてしまいます。遊女たちはたまらず窓から飛び降り、お堀のどぶに身を投げます。その中には、あの紅梅の姿も。紅梅は野次馬の中から辰を見つけ、助けを求めますが、何を今更とにべもなくそっぽを向かれます。首だけ浮かべた紅梅が一言、「今の私は首ったけだよ」というオチで終わるという落語です。したたかで憎めない遊女のたくましさがよく描かれている郭噺ですね。

ここで紹介した噺の他にも、吉原遊郭を描いた落語はたくさんありますので、興味のある方はぜひ触れてみてください。隠れた吉原の魅力が見えてきますよ。