吉原言葉「ありんす」の秘密

吉原の「ありんす言葉」は独特です。全国各地の遊郭の言葉にもそれぞれユニークなものがありますが、その中でも独特な「ありんす言葉」は有名です。独特といっても、あまりにも世間一般の言葉遣いとかけ離れていては意味が通じません。ありんす言葉は、助動詞や語尾の変化によって、特徴づけれらます。文章の主たる部分はふつうの 言葉を使い、語尾を変えたりするだけですので、初めての人が聞いても意味が通じるものです。遊女たちの独特な言葉遣いが、吉原という世界の「夢心地」をさらに高めていたのでしょう。

【吉原を別世界にするためには、ことばも変えなければならなかった】

ありんす言葉がなぜ生まれたのかについては諸説ありはっきりとはしませんが、もっとも有力なのは、遊女たちのなまりを隠すためだったというものです。多くの遊女は女衒(ぜげん)によって、地方の農村部から買われてきた少女たちです。それぞれになまりがあり、客はその言葉を聞いて出身地がわかってしまいます。

言葉によって同郷であることが知れ、客に同情されても困るし遊女が里心を催しても困ります。その結果、客と遊女が逃亡したり心中したりすることにもなりかねません。また、吉原は俗世間と切り離された別世界なのに、田舎なまりを聞いた客を現実に引き戻し、幻滅させてしまいかねません。吉原の「別世界性」を保つためには、なまりがなく、現実世界とは異なる言語が必要だったのでしょう。

【ありんすはどんな言葉だったか】

ありんす言葉がいつ頃からできたものかも定かではありませんが、1600年代の後半には定着していたと言われます。見世によって多少の違いがあり、時代によっても移り変わります。おもな「ありんす言葉」は次のようなものです。

ありんす=あります  ありんした=ありました  ありんせん=ありません  ありんしょう=ありましょう
おす=あります  しんす=します  おざんす=ございます  おざんした=ございました
おざんせん=ございません  おざんしょう=ございましょう  そうざんす=そうです
来なんす=来られます  来なんした=来られました  来なんせ=くてください  お座りんす=座ってください

客にとっても、吉原独特の言葉を聞くことは楽しみの一つで、ありんすを聞いて吉原気分に浸ったといわれます。興にのった客がありんすを使うこともありました。

ありんす言葉は吉原を別世界とするために大きな役割を果たしました。どんな男も、吉原の大門をくぐると、現実のありとあらゆることをすっかり忘れてしまったと言われます。ありんすの吉原は、夢の世界だったのでしょう。